企業紹介
株式会社イトーキ(東京都中央区)はオフィス家具の製造販売、オフィス空間デザイン、オフィスコンサルティングなどを手掛ける企業です。『明日の「働く」を、デザインする。』をミッションステートメントに掲げ、オフィスのほか在宅ワーク、公共施設や物流施設など、さまざまな「空間」「環境」「場」づくりをサポートしています。
活動紹介
イトーキでは2017年に「健康経営宣言」を策定、社内の健康に関する担当部門によって組織横断的に構成された「健康経営推進委員会」を中心に従業員がより健康的に働くためのさまざまな活動に取り組んでいます。今回は本社オフィスで実践している新しい働き方「XORK Style(ゾーク・スタイル)」の概要やメリットについて、同社人事部長の大井卓爾さんと産業保健師の大森彩華さんにお話を伺いました。
目的に応じて働く場所が変えられるオフィス
イトーキが実践する新しい働き方「XORK Style」は、従業員の裁量を最大化し、従業員が自らの働き方を自律的にデザインするスタイル。そのベースとなるのが「Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング、以下ABW)※」です。ABWとは、原則として従業員はオフィス内に固定席を持たず、その時々の仕事内容や相手に応じて、最も生産性が高く働ける場所を従業員自身が選択する働き方のこと。
ABWの実践の場となっているのが、2018年に完成したイトーキの本社オフィス「ITOKI TOKYO XORK(イトーキ・トウキョウ・ゾーク)」です。3フロアにわたるオフィス内には、例えば「個人で集中して作業したい」、「ウェブ会議をしたい」、「みんなでアイデアを出し合いたい」といったニーズに適した、さまざまなタイプのワーキングスペースが用意されています。
「例えば、午前中はウェブ会議に集中したいから個人用ブースに、午後からはグループでアイデア出しをしたいからオープンスペースに集まる、といった具合に、目的に応じてオフィス内を移動します。1日に複数のスペースを移動しながら働くことも珍しくないため、オフィスから一歩も出ない日でも、気が付けば結構な距離を歩いていますね」と大井さん。以前、他の会社で働いていた頃に比べて、日中の運動量がかなり増えたことを実感しているそうです。なお、個人情報の取扱いに同意が得られた社員の位置情報はオンラインでリアルタイムに確認できるほか、オフィスの活用によるさまざまなデータが可視化されています。
働きながら活動量を増やす「仕掛け」が随所に
オフィス内では、日常的な行動が自然に歩数アップや健康的な活動につながるように、次のような環境も整えられています。
■フロアを繋ぐ中階段の設置
3フロア(ビルの11F~13F)に分かれているオフィスをつなぐ、吹き抜けの中階段を設置。従業員がエレベーターを使わずに徒歩でフロア間を移動できるようにしている。
■ゴミステーションの設置
個人用のゴミ箱は設置せず、各フロアに設置されたゴミステーションを利用することで、「ゴミを捨てる」という日常的な行動が自然と歩数アップにつながるよう工夫されている。
■上下昇降デスク・テーブルの設置
高さを調整できるデスクやテーブルを各所に設置。立ったままミーティングやパソコン操作ができるようにして、いわゆる「座りっぱなし」を防いでいる。
こういった取組が功を奏し、従業員の行動や意識にも少しずつ変化が現れているといいます。
「イトーキでは従業員のパフォーマンスを可視化するPerformance Trail(パフォーマンストレイル)というアンケートサービスを提供しており、年に1回、自社従業員にも実施しています。直近のアンケート結果を見ると、イトーキの従業員の身体活動のスコア(業務中に身体を動かしたかどうかを測るスコア)は46.8ポイントと、全国平均(42ポイント)を上回っています」と大森さんは強調します。
また、健康に配慮されたオフィス環境は、従業員のイトーキへのエンゲージメント(愛着、帰属意識)にも大きく影響を与えています。大井さんによると、オフィス改修前は40~50%で推移していたエンゲージメント調査結果は、オフィス移転後もより良い環境を目指してオフィス投資を重ねた結果、直近では約74%にまで上昇しているそうです。
オフィス内での移動が「偶発的なコミュニケーション」のきっかけに
「XORK Style」は、従業員の身体活動量増加だけでなく、他にもさまざまな効果を生んでいます。
大井さんが特に実感しているのは、従業員同士の偶発的なコミュニケーションがとりやすくなったこと。「オフィス内を移動する機会が増えるので、他の従業員と偶然に顔を合わせる機会も増えます。そのときにちょっとした立ち話をすることが、すごく良いコミュニケーションになるんですよね。お互いの近況報告もできて、それが新しいアイデアのきっかけになることもあります」とのこと。
「仕事で煮詰まっているときにはオフィス内を歩くことも、気分転換になりますね。業務中の従業員の自然な様子をさりげなく観察できるのもXORK Styleのメリットの一つと感じます。いつもと様子が違うなと感じたら気軽に声を掛けたり対話用のワークプレイスも活用できますから、身体だけでなくメンタル面でも従業員の健康をサポートしやすい設計だと実感しています」。
また、オフィス内に設けられた「健康推進室」には、産業保健師が常駐しています。大森さんは、「健康推進室内には、体組成計や血圧計も常備しており、従業員は自由に利用できます。休養室のほかにカウンセリングルームも設けていますので、勤務時間中ならいつでも、心身の健康に関する相談ができる体制を整えています」と説明します。
「オフィスワーカーが健康的に働ける社会」の実現に貢献したい
このように、さまざまな効果を生んでいる「ITOKI TOKYO XORK」ですが、開設から5年以上経った今も進化を続けています。
「オフィス家具の販売やオフィス関連サービスの提供を手掛ける当社にとって、本社オフィスは一種の実証実験の場でもあります。実際にオフィスを使っている従業員から上がってくる『こうすれば、もっと使いやすいのではないか?』、『こんな取組をやってみたい』といった提言やアイデアを反映して、常により生産性の上がるオフィスを目指してリニューアルを重ねています。その意味で、当オフィスは永遠に進化し続けるオフィスだと言えます」と大井さん。
このほか、「健康活動報奨金」制度や従業員向けの運動イベント等の企画・実行も積極的に行っているイトーキ。今後の目標について大井さんは、「引き続き積極的に従業員が健康的に働ける環境の整備に取り組み、その成果を製品やサービスに落とし込む努力を通じて、オフィスワーカーが健康的に働ける社会の実現に貢献していきたい」と話しています。
※オランダのワークスタイル変革コンサルティング企業 Veldhoen+Companyの研究により作られた考え方です。イトーキは同企業とABW(Activity Based Working)のビジネス展開について業務提携を結んでいます。